お知らせ・セミナー
第2回 分子病態学セミナー
演題 | パーキンソン病はミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)不全病か? |
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講師 | 松田 憲之 博士(東京都医学総合研究所ユビキチンプロジェクトリーダー) *松田先生はユビキチンのリン酸化がパーキンソン病発症に関わる!!という衝撃的な発見をされ、新聞・TVなどでも多数報道されている本領域の先導的研究者です。 |
日時 | 2017年3月24日(金)午後5時より |
場所 | 6階 中講義室2 |
連絡先 | 分子病態学(1生化) 徳永 文稔 (内)3720 E-mail: ftokunaga(at)med.osaka-cu.ac.jp |
ちらし |
紹介
東京都医学総合研究所 松田憲之先生が「パーキンソン病はミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)不全病か?」というタイトルで公演されます。松田先生はユビキチンのリン酸化によるユビキチンリガーゼ(パーキン)活性化という衝撃的な分子機構を見出し、パーキンソン病の基礎解析の先導的研究者です。多数のご来聴をお待ちしております。
要旨
パーキンソン病(PD)は中脳ドパミンニューロンが変性・脱落することを主因とする神経変性疾患である。PDの発症原因については諸説あるが、PD患者においてミトコンドリア電子伝達系の活性が低下していることや、電子伝達系を障害する薬剤がヒトやモデル動物にPD様の症状を引き起こすことから、ミトコンドリアの機能障害が発症の一因であると推測される。しかしながら、その分子レベルの理解は進んでいなかった。
遺伝性PD(正確には遺伝性パーキンソニズム)と一般的な孤発性PDの病態は完全に一致するわけではないが、類似点も多く、両者の病因には共通項があると考えられる。PINK1とParkinは劣性遺伝性PDの原因遺伝子産物であり、PINK1はプロテインキナーゼ、Parkinは基質にユビキチンを付加するユビキチン連結酵素(E3)である。2008年に米国のYouleらによって、膜電位が消失した(ATPを合成できない)低品質ミトコンドリアにParkinが移行して、そのような不良ミトコンドリアを分解に導くという仮説が提唱された(Narendraら,JCB, 2008)。我々とYouleらは独立してこの機構の解明に挑み、PINK1が膜電位の低下依存的にミトコンドリア上に蓄積・活性化し(Matsudaら, JCB 2010, Okatsuら, Nat. Commun. 2012)、PINK1がユビキチンをリン酸化することでParkinを活性型に変換するとともに(Koyanoら, Nature 2014, Yamanoら, JBC 2015)、Parkinを異常ミトコンドリアにリクルートする(Okatsuら, JCB 2015)ことを明らかにした。その結果、不良ミトコンドリアは細胞内から除去されるが、Pink1やParkinの変異によってこの品質管理機構が破綻すると低品質ミトコンドリアが蓄積し、最終的に遺伝性PDが発症すると考えられる。
Parkinによってユビキチン化されたミトコンドリアの運命については少し議論がある。Youleらは上記2008年の論文で、ユビキチン化された異常ミトコンドリアがオートファジー(マイトファジー)を介して分解されることを鮮烈に報告したが、後にこのミトコンドリア分解にはプロテアソームが関与することも報告された(Yoshiiら, JBC 2011)。ただし、Parkinがプロテアソームの認識しないK63-linkageポリユビキチン鎖を形成すること、プロテアソームでは分解できないミトコンドリアDNA(mtDNA)がParkin依存的に消失すること、Parkinが基質特異性を殆ど示さないことなどは、マイトファジーの生理的な重要性を示唆しているようにも思える。本セミナーでは我々の実験データをもとに「パーキンソン病とマイトファジーの関係はどこまで解明されているのか」について議論したい。